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若冲が来てくれました‐プライスコレクション江戸絵画の美と生命

八月になったら、福島に行こうと考えていた。
せっかくの夏休みだし、どっか遠くへ行きたい。
毎日が夏休みのような生活じゃないかというのはともかく、いわゆる学校の暦と同じ夏休みが始まったら行こうと考えていたのだ。正確には福島県立美術館で開催されている『若冲が来てくれました プライスコレクション 江戸絵画の美と生命』展を観にいこうと。

そしてある週末の夜に、突如「明日行く」と宣言し、ちょっとそこまで買い物に行くというような出で立ちでふらりと電車に乗り込んだ。上野から新幹線で1時間半。よく考えたら近い。土曜の朝早くということもあってか、自由席はがらがら、福島に着くころには、同じ車両に誰も乗っていなかった。

美術館は福島駅から飯坂線でひと駅だ。Googleマップのルート案内で徒歩のがいいようなことが書いてあるから、街並みでも拝見しようと思って歩いた。けど、車の通る横をてくてく歩いて、景色はそれほどおもしろくない。美術館に着くころには、きれいな道が見えてきて、思ったより、遠かった。



最近、私の中でちょっとした江戸絵画ブームである。そしてすっかり若冲の虜…。
世間的にはだいぶ遅れた波である。プライスコレクションが大々的にお披露目されたのは、2006年の東京国立博物館で開催された展覧会であった。更にさかのぼって2000年の京都国立博物館で開かれた「若冲展」がそもそもの火付け役ということになっている。
それまで、日本でも殆ど注目されていなかった若冲だけれど、プライスさんのおかげですっかり大人気作家となってしまったのだ。




福島県立美術館に着いて、さぁ、鑑賞するぞと意気込んで中に入ったはいいが、結構混んでいる。余裕で見られると思っていたにも関わらず、そうでもなかった。
展覧会の顔ともいうべき若冲の≪鳥獣花木図屏風≫は展実室の一番最後に飾られており、長蛇の列ができていた。
約1センチ四方の升目8万6千個で構成される屏風。
これが発見された時、博物館の蔵の階段の踊り場に埃をかぶって置いてあったという。
博物館員はこれを下品な絵だといっていたというから、日本人というのは本当に外国から評価されると、急に見方が変わるからおかしなものである。



帰りは電車に乗ろうと最寄駅まで行った。とても駅には見えない小じんまりした佇まい。
窓口は閉まっていて、切符は隣の券売機で購入してくださいとある。券売機の方を見ると、故障中の紙が張ってある。どうすればいいんだと笑いをこらえながら、とりあえず電車に乗ったら、車掌さんが切符を売りにきてくれた。
乗った人をちゃんと覚えていて、一人ずつ話しかけてくれていたのだ。
かわいい電車に揺られて、福島駅に着くころには、央ちゃんどうしているかな、と思って、またすぐに帰りの新幹線に乗ってしまった。短い旅だった。

図書館で「伊藤若冲大全」を開いた。
2002年に京都国立博物館から発行された大型の画集である。可能な限り若冲の作品を収録したというこの本を手に取った時、ずっしりとした重みに心臓が高鳴った。
ページをめくるたびに拓かれる新しい世界。目に栄養を与えてくれるような色彩。
でも私が好きなのは水墨画だ。大胆かつ、繊細な筆遣い。どの絵を見ても、それを見た者を驚かせ、笑わせ、泣かせてくれる。まるで現代アートだ。
はっと思ってケースをひっくり返すと価格4万円とある。ほしい。

今住んでいるマンションの和室は畳6畳に、小さな障子張りの引き扉があるだけである。
屏風はおろか、掛け軸をかけるような床の間はない。効率だけを考えた部屋に、そんなものがあるわけがない。和室と洋室との間にある襖は、クリーム色の無地だ。ここに絵が描いてあったらどんなに素敵だろう。そう思ったら、何か四季を感じさせる絵が必要だと創造力が湧いた。まっさらなんて、なんてつまらないのだろうか。ああそうか、昔の人はそう思って、絵師に絵を頼んだのかもしれない、と思った。

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